一人旅はご飯がわりと難題です。性格的に入りづらいことはめったにないですが
はずしたくないですからね。ホテルでは朝ごはんだけにして、土地のおいしいものを
食べることにしています。
一日目は商店街を歩いていて気になった「名代とんかつ かっぱ」。
何の気なしにはいったのですが、お客さんいっぱい。
たのんだヒレカツにデミグラスソースがかかってきて驚く。
東京サイズを予想していたら、おっきくてお腹パンパン。
そのまま帰ろうかと思いましたが、せっかくの旅の夜。
知人に薦められていた「Bar栗坂」に寄ることに。
倉敷デパートという商店街の
奥にあるバーです。
シンプルな落ち着くカウンターのみのバーでして、
マスターと楽しくおしゃべり。
美味しい店を聞いてみました。
明日のお昼は「みやけ亭」で洋食の予定だと話したら、
まちがいのない選択とほめられました。
薦めてくれたのが「とん平」というお店。おじいちゃんがいっぱいの店だよと。
女性一人はきついかもしれないからともう一軒教えてくれました。
その後きた常連さんに、「ご飯はかっぱで食べて、次ここに来たの?
どっちも地元の人しか来ない店なのにさ~」と笑われてしまいました。
光栄であります。倉敷のバーにはチャージがないそうです。
3杯のんで、なんと1800円。びっくりのお値段でした。
二日目のお昼は「みやけ亭」。商店街の真ん中にある洋食屋さん。
観光客の女性たちやカップルがほとんどでしたが、
ひとりカウンターで食べたエビとホタテのグラタンのシンプルでいて
深い美味しさ。大満足。近所にあったら頻繁に通うはず。
そして夜は本番の「とん平」です。
かなり細い路地の奥に、浮き上がる看板。
間違いない見た目です。
中はカウンターとテーブルひとつ。
二階もあるようですが、18時半くらいでもうすごい人。
カウンターの真ん中に空いてた席にすべりこむ。
まわりを見回すと平均年齢は60越えといったところでしょうか。
でもおどろくぐらい私好みの店なんです。メニューの札もよいですが、
大皿においた早く出るいくつかの料理と、シンプルだけど美味しそうな献立。
さわらの刺身、なす焼き、モツ煮を注文。
モツ煮がのっていたのは、やちむんです!
さすが倉敷はちがいますね。
お店の方に確認したら「そうよ~ 最近は高くなっちゃったけど」
と笑っていらっしゃいました。
追加で注文したのが「乙島しゃこの天ぷら」。
サクサクで最高に日本酒に会いました。
この店のすてきなのは、働く女性たち。
おかみさんやお姉さんでもなくて、
普通のお母さんが三人という感じなんです。
色っぽさとは無縁ですが、その安心感は見事。
そして、器がどれもちょうど良い感じなんです。
とくにしゃれすぎず、こだわりのものもあれば
普通のものもあり、どれも使いやすそう。
沖縄の器の話をお店の方としていたら、さっきまで隣でおねえちゃんの話ばかり
していたおじさん二人が「沖縄の方?」と話しかけてきました。
「ちがいます。でも沖縄の器を売っています」と話したら、
おひとりが備前焼を趣味で作られているそうで、いろんな話をさせていただきました。
おねえちゃんのこと考えているばかりじゃないことを知りました(笑)
お会計をしてもらい、お手洗いにはいり出てきたら
先ほどのお二人が「君に飯蛸の天ぷらを頼んだから、すわりなさい」と
もう一度すわり、飯蛸の取り方を教えてもらい、お酒までごちそうになり
愉しい旅の夜となりました。
「こんな常連しかいない店に、女ひとりですわっている。あんたは良いね」
と〆の一言までいただいてしまいました。ありがとうございます。
倉敷にどうして行きたかったかというと、大原美術館に行きたかったのです。
すばらしい美術館だとは前から聞いていて、ミュージアムショップにはうちの
やちむんもおいていただいてますし、これはいかなければと。ちょうど着いた日、1/28からは「まだまだすごいぞ!大原美術館」
という企画にかわったばかり。
最初に入った本館の最初の部屋で、もう悶絶。
ルノワール、マティス、モネ、ゴーギャンの並びに驚いていたら、
でこちゃんのエッセイを読んでからずっと見たかった
梅原龍三郎が登場。おーっなんて思ってたら、ピカソにロダン。
もう気が狂うんじゃないかと思いました。
ここは日本なのに、こんなにすごい所蔵品があるなんてどういうことなんだ!
と一人驚く。部屋をうつるごとに、ちがう驚きが待っているからすごい。
その後もムンク、ルソー、藤田嗣治もあれば、草間弥生だって、福田美蘭だってある。
本館でいちばん感動したのは、マティスが女性を描いた線画が3枚並んでいて、
そのあとにくるピカソの肘掛け椅子の女。もう素敵すぎて5回は往復。
しかし私を一番感動させたのは、本館ではなかったのです。児島虎次郎記念館オリエント室。
この看板の向こうに、すごいものたちが待っていたのです。
そこにあったのは動物の形をした様々なピッチャーのような土器。
そして6世紀から13世紀くらいのエジプト、イラン、トルコ、
スペインなどの陶器。そして陶器の欠片。
欠片がとにかくすごい。色鮮やかな色味はもちろんすばらしく、
筆や線彫りで描かれた文様、動物、植物、楽器を奏でる人。
でも欠片なんで、全部がない。どんな柄なのか、
色なのか、形なのかはあとは自分の想像の世界。ロマンです。
欠片の入った二つのガラスケースのまわりを、何度も何度もまわってしまいました。
美術館のスタッフが途中で交代したのですが、不思議そうに私をみていました(笑)
まあ、見ますよね、かなり変でしたから。
このすばらしい器はきっと新しいすてきなやちむんのモチーフになる。
そんなすてきな出逢いでした。
それにしてもあれだけ素晴らしいもののある四館をめぐって、
料金が1300円。ホテルの割引で1100円。
東京でいったどんな展覧会よりもすばらしく、安い。
おそるべし、大原美術館。
倉敷についてまずはホテルに荷物を。チェックインしたら部屋が二階で
「なんだ、二階かぁ~」なんてちょっと残念な気がしたのですが、
エレベーターで二階にいって部屋の方へ曲がったら、
思わず声を上げるほどの光景が。壁一面に棟方志功の版画「大世界の柵」。
部屋をでるとすぐにこの版画があるなんて贅沢すぎ。
部屋に荷物をおいてから、前にあるソファーで
ゆっくり眺めてしまいました。
あとで聞いたのですが、このホテルの壁に合わせて
棟方志功がぴったりのサイズで作ったものなのだそうです。
倉敷国際ホテルのためだけの特別な版画。
宿をここに選んで本当によかった。まずは閉まる前の倉敷民藝館へ。
お客さんが誰もいなかったので、ほぼ独り占め。
昔から使われてきたものたちをゆっくり見られるのは
とても豊かな時間。
でも、民藝の道具たちがガラスのケースに入っているのは
なんだか不思議な気もします。残すことが必要だから
仕方がないのですが、使われてこそ意味があるものですから。
うれしかったのは、ここでも沖縄の厨子甕に出逢えたこと。
いつの時代かは書いていなかったけれど、焼き締めのシンプルなもの。
それとも昔は色鮮やかだったのか?
いつまでも人々の生活に寄り添っていけるものにかかわっていける今は、
とっても幸せだと実感した時間でもありました。
民藝館自体の建物が味わい深くて、階段を上がったり降りたり、
まるで迷路みたい。ミシミシ、ミシミシという木造の音も積み重ねた時間を
感じるものでもありました。
映画の仕事を始めて17年目。沖縄クラフトの仕事を始めて4年目。
思いもかけずに大ヒットした映画のご褒美を年末にいただいてしまいました。
17年で初めてのことだったので、大切に使いたいと思っています。
そして思いついたのが、民藝をめぐる旅にでること。
海外旅行なら一瞬でなくなってしまうお金も、ちょっとした国内旅行なら
何回か行けるではないですか。沖縄のうつわの仕事をしていますが、
実は家にはいろんな地方の、時代の器があります。
母に貰ったものや、自分でコツコツ集めたもの、
仕事用にあふれるサンプルなどなど。
私の日々の暮らしを盛り立ててくれるものたちです。
ここ数年は旅と言えば、だいたい仕事で沖縄でしたが
今年は少し映画の本数を減らして、民藝のうつわや日本の良いものを
観に触れに出かけてみようと思います。
いろんなものを見ても、果たして「やっぱりやちむんが一番だ」と
言えるか否かの挑戦でもあります(笑)
最初の旅に選んだのは、倉敷です。まだなんにも決めていませんが
ふらっと明日から行ってきま~す。
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